転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


63 おかしの雲と笑顔と泣き顔 



 最初の頃はクモの巣が張っているような程度だった寸胴鍋の中は、やがて薄い綿が漂っているかのようになっっていく。
 それを見てそろそろかな? って思った僕は、その中に予め用意しておいた30センチくらいの長さの棒を入れてくるくると回しながらその綿のようなものを絡め取って行くと、その棒の周りには大きな綿の塊のようなものが出来上がった。
 僕が魔道具を使ってスティナちゃんのために作ってあげた甘いお菓子、綿菓子の完成だ。

「わぁ、くもだ! ルディーンにいちゃがくも、もってゆ」

「まぁ、本当。ねぇルディーン、それは何なの?」

 スティナちゃんは出来上がった物を見て大興奮、そしてその様子を見ていたヒルダ姉ちゃんが僕にこれは何かって聞いてきたんだよね。
 だから僕は答えようとしたんだけど……あれ? 綿ってなんて言えばいいんだろう?
 綿がどんなものかは前世の記憶にあるから知ってるけど僕自身は見た事がないし、それがどんな名前かも知らないんだよね。
 だからと言って綿菓子だよって答えても魔法の呪文と同じで、何でその名前なのかって聞かれたら答えようがない。

 と言う訳で僕はスティナちゃんが言った言葉を、そのまま名前にする事にしたんだ。

「えっとねぇ、おかしのくもだよ。ほら、ふわふわして、くもみたいでしょ」

「ええ、確かに雲みたいね」

 僕がつけたそのまんまな名前を聞いてお姉ちゃんは一見納得したみたいにそう返事をしてくれた。
 だけど、その表情を見てお姉ちゃんが聞きたかったのは名前じゃなくてこれが何なのかと言う事だったんだって気が付いた僕は、その答えとして一口分だけその雲からちぎって、

「はい、スティナちゃん。おいしいよ」

 そう言いながらスティナちゃんの前に差し出したんだ。
 そしたら。

 パクッ。

 スティナちゃんは手で受け取らずに、なんと僕の手からそのまま食べたちゃったんだよね。

「あま〜い! ルディーンにいちゃ、もっと!」

「えっ? ああ、うん、いいよ」

 突然の事に僕はびっくりしちゃったんだけど、綿菓子を食べたスティナちゃんがその甘さに驚いて僕に次の一口をねだって来たもんだから、もう一口分ちぎって差し出す。
 すると。

 パクッ。

 今回もまた、そのまま食べて、

「ん〜!」

 って言いながらほっぺたを両手で挟んで、とっても嬉しそうな顔をしたんだ。
 そして次からは何も言わずに口を開けて待ってるんだもん。
 だから結局作った分の綿菓子が無くなるまで、僕はスティナちゃんに綿菓子を食べさせ続ける事になっちゃったんだ。



「なるほどねぇ。この魔道具の、ここの穴に砂糖を入れればあの食べる雲が出来るってことなのね」

「そうみたいね」

 僕がスティナちゃんの綿菓子供給係りになっている横では、ヒルダ姉ちゃんとお母さんが僕がさっきやって見せた使い方をまねして、綿菓子改め雲菓子を自分たちで作ろうとしていた。
 使っている火の魔石が小さいおかげで動かしっぱなしでも壊れる心配がないからスイッチを入れっぱなしにしてあったので、お姉ちゃんがお砂糖を缶に入れると途端に寸胴鍋の中に薄い雲が出来上がって行く。

「あら、ヒルダが入れてもちゃんと雲みたいになったわ。不思議ねぇ」
「まぁ魔道具なんて基本、不思議な事を起こす道具だから。えっと、確かこれを棒で絡め取ればいいのよね?」

 そう言うとヒルダ姉ちゃんは器用に、そう、僕なんかよりよっぽどうまく糸状の飴を木の棒に絡め取って、綺麗な形のおかしの雲を完成させたんだ。

「あら、意外と簡単に出来上がるものなのね」

 そんなヒルダ姉ちゃんの姿を見ていたお母さんは、お姉ちゃんが持っている出来上がったばかりの雲から一口分むしり取ってパクリ。

「っ!?」

「ああ、ちょっと待って! そんなペースで食べられたら私の分がなくなっちゃう!」

 その一口があまりに美味しかったのか、お母さんはそのまま無言でヒルダ姉ちゃんが持つおかしの雲を次々とむしり取っては口に運ぶもんだから、ヒルダ姉ちゃんも大慌てで出来上がったばかりの少し暖かい雲をほおばりだしたんだ。



 その後、スティナちゃんがもっともっとって言うもんだから、結局庭に持ってきたお砂糖の殆どは雲菓子になって彼女のお腹の中へ。
 とは言ってもこのお菓子になったお砂糖自体はおかしの雲の見た目ほど多くないから、これだけ食べてもご飯が食べられなくなるほどの量ではないんだけどね。
 それに元々スティナちゃんのために作った魔道具なんだから、彼女が喜んでくれたのならそれでよかったんだと思う。
 たとえそれを作った僕が一口も食べられなかったとしてもね。

 ……いいもん、また今度作るから。



 さて、実はこの話はこれで終わりじゃないんだ。
 と言うのもその日の晩御飯の時に、この話をお母さんがレーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんに話しちゃったからなんだよね。
 スティナちゃんだけじゃなくお母さんやヒルダ姉ちゃんも喜んで食べてたのを見れば解る通り、この村では甘いお菓子なんて滅多に食べられない。
 だからこの2人にそんな話をしたらどうなるかなんて解りそうなもんなのに、余程おかしの雲に衝撃を受けたのか、お母さんは本当に楽しそうに喋っちゃたんだよね。

「お母さんとルディーンだけ、ずるい!」

「そうよ。甘いお菓子を自分たちだけで食べるなんて、ずるい!」

 結果、話を聞いたお姉ちゃんたちは思った通り大騒ぎしだしたんだ。

 でもずるいって……僕は食べられなかったんだけど。

 そんな事を考えながらも、二人の抗議の声を聞いておかしの雲を作る魔道具はこの家にあるんだから食べたいなら自分で作ればいいんじゃないかなぁ? なんて思ってたんだけど、どうやらそう単純な話ではないみたいなんだよね。
 だってお母さんがお姉ちゃんたちの抗議を聞いて、苦笑いしながらこんな事を言ったんだもん。

「ごめんごめん。でも、砂糖は高いからそんなに買って来て貰ってないのよ。次誰かが町に行く時は多めに仕入れて来てもらうから、2人の分はまたその時に、ね」

「「えぇ〜!」」

 お砂糖自体は結構な量をイーノックカウで買ってきたけど、それはあくまで村全体で必要な分だからうちの取り分はそれ程多くないんだって。
 そりゃあ買ってきたばかりだから結構な量のお砂糖があるにはあるんだけど、次に何時イーノックカウに行くか解らないんだからなるべく節約しておかないと後で困る事になるんだってさ。

 そんなお母さんの言い分を聞いてしばらくの間お姉ちゃんたち2人はまだ文句を言いたそうだったけど、最後には折れてくれたみたいで、ちょっと拗ねたような顔をしながらもこの話題はここで終わったんだ。

 ところが。


「ルディーンにいちゃ! くもつくって!」

 次の日、スティナちゃんが僕たちの家へと雲のお菓子を求めてやってきたんだ。
 でも、これにはみんな困ってしまったんだよね。

 僕としてはスティナちゃんが折角遊びに来てくれたんだし、可愛い妹のお願いなんだからからお兄ちゃんとしてはできる事なら叶えてあげたい。
 だけど、昨日のお母さんの話を聞いているから簡単に頷いてあげるわけにはいかないんだよね。

 そしてそのお母さんも自分の子供より遥かに可愛いがっている孫のおねだりなんだから、できる事なら叶えてあげたいって思ってるっぽいんだけど、ここでいいよなんて言ったら多分明日からも毎日来るようになるだろうから、そう簡単に許すわけにも行かないみたいなんだよね。


「ねえにいちゃ、つくって! ねぇ〜!」

 頼んでもなかなかお菓子を作ってくれないからなのか、スティナちゃんは僕の袖を引っ張ってゆらゆら揺れながらお願いを繰り返してくるんだよね。
 そんな姿を見て困った僕はお母さんに助けてもらおうと目を向けるんだけど、お母さんはお母さんでここで何かを言ってスティナちゃんに嫌われたくないからと目を逸らすんだもん。

 もう! お母さんは大人なんだから、何とかしてよ!

 そう思ってなんとかお母さんに助けてもらおうとしたんだけど、一向に此方には目を向けてくれないんだよね。
 だから僕は途方にくれ始めたんだけど、そんな時、家の外から強力な助っ人が現れたんだ。

「ダメよ、スティナ。ルディーンが困ってるでしょ」

 ヒルダ姉ちゃんだ。
 お姉ちゃんも自分の家でご飯を作っているんだからお砂糖がどれだけ大事か解ってるみたいで、スティナちゃんにお菓子をあきらめるように言い聞かせようとしてくれたんだよね。
 その様子を見て僕とお母さんは一安心。
 ヒルダ姉ちゃんはスティナちゃんのお母さんなんだから、きっと説得してくれると思ったんだ。
 ところが。

「ぐすっ。ルディーンにいちゃならつくってくれるもん! きのうもつくってくれたもん! うう、うわぁ〜ん」

 ヒルダ姉ちゃんの登場で、もしかしたらお菓子が食べられないのかも知れないって思ったスティナちゃんの涙腺はあっと言う間に決壊、大声で泣き出してしまったんだ。
 これにはみんな大弱り。

 小さいスティナちゃんにとって、親の話を聞いて我慢すると言うのはまだ難しかったみたいなんだよね。
 そしてお母さんが、そんなスティナちゃんの姿に耐えられるはずも無く。

「仕方がないわね。ルディーン。砂糖を台所から持ってきて、スティナちゃんに作って上げなさい」

 あっと言う間に陥落して、僕にお菓子を作るように言ってきたんだ。
 でも、そんなお母さんをヒルダ姉ちゃんが制止する。

「だめよ、お母さん。今日はいいけど明日からはどうするつもり? 後で砂糖が足りなくなって困ってしまう事になるわよ」

「でも可哀想じゃない、こんなに泣いてるし。ヒルダ、あなたはこんなに泣いてるスティナちゃんを放っておける?」

「うわぁ〜ん!」

 泣き続けるスティナちゃんと、どうしていいのか解らずに固まってしまったお母さんとお姉ちゃん。


 う〜ん、どうしよう? お菓子さえ作ってあげればスティナちゃんの機嫌なんてあっと言う間に直るんだろうけど、そしたら明日からまた同じことの繰り返しになっちゃうのは目に見えてるしなぁ。


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